水戸地方裁判所 昭和58年(行ウ)14号 判決 1991年9月17日
原告
浜田耕太郎
同
浜田弘
同
若狭英信
同
宮崎比呂志
同
岩村三郎
右五名訴訟代理人弁護士
種田誠
同
藤沢抱一
同
丸井英弘
同
森井利和
同
海渡雄一
被告
竹内藤男
同
橋本章
同
古橋靖
右三名訴訟代理人弁護士
小泉尚義
同
大和田一雄
主文
一 原告らの被告古橋靖に対する訴えを却下する。
二 原告らの被告竹内藤男及び同橋本章に対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告らの請求の趣旨
1 被告竹内藤男、同橋本章は連帯して茨城県に対し、四億二七四一万八八九二円及びこれに対する昭和五八年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告竹内藤男、同古橋靖は連帯して茨城県に対し、二億五七五四万八〇〇〇円及び内二億二一五四万八〇〇〇円に対する昭和五九年四月一日から、内三六〇〇万円に対する昭和六〇年四月一日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する被告古橋靖の答弁
(本案前)
主文第一、第三項同旨
(本案)
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
三 請求の趣旨に対する被告竹内藤男、同橋本章の答弁
主文第二、第三項同旨
第二 当事者の主張
一 原告らの請求原因
1 当事者
(一) 原告らは、いずれも茨城県の住民である。
(二) 被告竹内藤男(以下「被告竹内」という。)は、遅くとも昭和五六年以降茨城県知事である。
被告橋本章(以下「被告橋本」という。)は、昭和五六年一二月二二日から昭和五八年六月二〇日まで、被告古橋靖(以下「被告古橋」という。)は、昭和五八年七月一五日以降、それぞれ茨城県出納長の地位にあるものである。
2 公金の支出及びその違法性
(一) 被告竹内は、茨城県知事として、道路法一八条一項の規定に基づき、県道須賀北埠頭線の区域を鹿島郡鹿島町大字宮中字宮中野三八二七番地先から同町大字大船津字香取町二六五七番地の一地先まで、敷地の幅員最大12.00メートル、最小4.50メートルを最大12.00メートル、最小4.50メートル、最大43.00メートル、最小4.50メートルと、延長二五二〇メートルを2520.00メートル、一八〇五メートルと変更する決定を行って、その旨告示(昭和五六年三月五日付け茨城県告示第三〇四号)し、「県道須賀北埠頭線改築工事(茨城県鹿島郡鹿島町大字宮中字宮中野ないし同郡同町大字大船津字香取町間)及びこれに伴う国道拡幅工事並びに町道摺付工事」事業(以下右改築部分を「本件道路」といい、右事業を「本件道路開設事業」という。)を計画した。
(二)(1) 被告竹内は、茨城県知事として、本件道路開設事業の実行として、右道路用地の買収、道路建設工事を行い、右第1項(二)の就任期間に応じて、茨城県出納長である被告橋本及び同古橋に右用地買収費、工事費の支出を命じ、被告橋本及び同古橋は右費用(昭和五七年度まで四億二七四一万八八九六円、昭和五八年度二億二一五四万八〇〇〇円、昭和五九年度三六〇〇万円)を支出した。
(2) 被告竹内は、茨城県知事として、本件道路開設事業の一環として、本件道路につき、昭和五七年一一月二九日付け用第三七一号をもって、建設大臣に対し、土地収用法一六条の規定による「本件道路改築工事及びこれに伴う国道拡幅工事並びに町道摺付工事」事業の事業認定申請を行い、昭和五八年二月一七日、建設大臣から右事業認定(以下「本件事業認定」という。)がされた。
さらに、被告竹内は、茨城県知事として、昭和五八年四月二七日付けで、茨城県収用委員会に対し、土地収用法三九条一項の規定による「茨城県鹿島郡鹿島町大字大船津字時秀町二七一八番一公簿田・現況宅地及び同町二七一八番二公簿田・現況宅地」の一部の収用の権利取得裁決の申請並びに土地収用法四七条の二第三項の規定による右各土地の明渡裁決の申立てを行い、昭和五九年六月二六日、茨城県収用委員会から右各土地の収用の権利取得裁決及び明渡裁決がされた。
被告竹内は、茨城県知事として、右各裁決に基づき、権利者に補償金を支払って、昭和五九年八月二九日、土地収用、明渡しの執行を行い、その後本件道路の改築等の工事を行って、被告橋本及び同古橋に右(1)の費用を支出させた。
(三) 本件道路開設事業は、以下に述べる理由により違法であり、したがってこれを前提にした本件道路用地の収用、任意買収、道路建設工事の各費用の支出も違法であるから、被告竹内と同橋本、被告竹内と同古橋は前記それぞれの時期に共同で茨城県に対し、同額の損害を与えたものである。
(1) 本件道路の必要性の不存在
県道須賀北埠頭線の現道(以下「本件現道」という。)の交通量は、本件道路を必要とする状況ではなく、将来も本件道路を必要とする交通量の発生する見込みはない。また、仮に本件道路が必要であるとしても、歩道を設けたり、四車線とする必要性はない。
その根拠の詳細は次に述べるとおりである。
(ア) 本件現道の交通量の状況
(a) 茨城県は本件現道の交通量は一日当たり三二七五台を記録しているとしている。しかし、この調査は年末の混雑している時期のものであって、それが信頼に足る数値なのかどうか不明である。さらに、そもそも、茨城県が前提とする一車線道路の交通容量一日当たり五〇〇台というのは、科学的根拠がない。交通容量の算定は、本来二車線以上の道路を念頭に置いたものであって、一車線道路については、過去に幅員四メートルで一日八〇〇〇台、4.5メートルで一日一万二〇〇〇台の交通量が記録された例もあることが報告されており、一車線の場合の交通容量一日五〇〇台は科学的根拠がない。また、本件現道は一車線というものの、車が走ったまま擦れ違える状況であり、実質二車線であって、一車線を前提とする交通容量は根拠がない。
(b) さらに、茨城県は、本件現道の混雑度が6.55に達しているとするが、そうとすると全く道路として機能しないような慢性的交通渋滞が発生するほどの数値である。しかし、現に慢性的交通渋滞など発生しておらず、車両はスムーズに通行しており、むしろ本件現道は閑散とした道路であって、茨城県の主張は事実がそれを裏切っている。しかも、昭和五五年の道路交通センサスによれば、本件現道周辺の道路混雑度は、国道五一号線(鹿島町・宮中)が1.48、県道茨城鹿島線が1.11である。これらの数値と比べ、本件現道が混雑度6.55になるとは到底考えられない。
しかも、茨城県は、昭和五八年度までに暫定二車線とし、昭和六五年度までに四車線とする計画であるとしているが、事業認定時の交通量には二車線で十分とするようである。これは、事業認定時の交通量が6.55というような程度に達していないことを意味するものであるのみならず、二車線の予測交通量は算定していないというのであるから、なおさらその数値は疑わしい。
(c) さらに、「朝夕の混雑時には交通停滞がはなはだしい」と茨城県は主張している。しかし、茨城県は、いつの時間帯に、どの程度の時間、交通「停滞」があり、そこを通り抜ける車両がどの程度の時間をかけなければならないのか、全く測定せずに事業認定申請をしたものであり、十分な検討をしないまま行った事業認定申請と裁決申請のずさんさを示すものである。
しかも、朝夕のラッシュ時に大船津交差点(別紙図面(一)のD地点)で一時的な交通渋滞が仮にあったとしても、これだけをもって道路全体の改築の必要があるという結論を導き出すことはできず、その具体的な数値を調査した段階において、部分的手直しが可能なのかどうかが検討されるべく、かかる点を検討せずされた本件道路開設事業の計画は、必要性のないものである。
(イ) 交通量予測について
(a) 茨城県は、本件現道を、昭和六五年度一日交通量一万二五〇〇台として予想し、かつ、その数値を計画交通量としている。そして、茨城県は、本件現道を通勤用及び物資輸送用の道路として位置づけている。
(b) しかるに、本件現道は、少なくとも主要幹線道路ではないのであって、鹿島地区における主要な道路として、また、幹線として位置づけられるのは、国道五一号線、国道一二四号線、県道茨城鹿島線である。しかも、起業者が「通勤用及び物資輸送用として極めて重要」としながら、その「通勤」「物資輸送」の目的地や交通量の内容を何ら調査していないことは、その重要性を疑わしめるものである。
ところで、本件現道の交通量は、茨城県の主張を取りあえず前提にしても、昭和五六年三二七五台、昭和五八年三六四二台であり、交通センサスでは昭和五八年現在で一日約四〇〇〇台であって、これは、昭和五四年三八〇〇台、昭和五六年三五〇〇台(交通センサスによる。)という数値と比べると、いずれにしても経年的にさして大きな変化はない(昭和五六年には減少していることに注意すべきである。)にもかかわらず、計画交通量は昭和六五年には一挙に約三倍の一万二五〇〇台という予測値となっている。ところが、鹿島地区における最も主要な道路であり、他路線に比べ交通量の多い国道五一号線の昭和五八年の交通量は、大船津交差点付近において一日約一万八六〇〇台(対五四年比八パーセント増)、国道一二四号線の平均交通量(昭和五五年)は一日約一万一三〇〇台(対五二年比〇パーセント増)であり(交通センサスによる。)、これらの交通量及びその動向に比べ、昭和六五年一日約一万二五〇〇台という本件の予測交通量はあまりに過大である。
(c) また、このことは、本件道路が二車線で開通した後、証明された。すなわち、昭和六三年交通量は計画(予測)交通量の二分の一以下の、日量六〇〇〇台弱にとどまっているのであって、到底昭和六五年に一万二五〇〇台という数値になるはずもないし、四車線になる目途も立っていない。また、四種一級道路で交通量が日量一万二〇〇〇台以下、四種二級道路で交通量が日量一万台以下の場合、車線数は二とするのが適当であり、四車線の必要性は全くない。
(d) 以上のとおり、本件現道は本件道路を建設するほどの混雑度ではなく、また、本件道路の交通量を日量一万二五〇〇台とする予測は過大であって、せいぜい二車線で十分といえるのであり、歩行者の通行もさほど予測されないから、歩道設置も不要である。
(ウ) 鹿島開発の見通しと変容
鹿島地域は、その開発当初、重厚長大型産業の経済拠点とされ、これを前提として道路整備計画が立てられた。しかし、本件事業認定当時、既に産業構造の転換期を迎え、成長余力を喪失していた。したがって、その後、本件道路を必要とするほどの人口、交通量の増加を見込むことはできなくなっていた。
すなわち、鹿島開発は、その当初から既存の集積がほとんどないところへ巨大なコンビナートを建設するという特色を有し、昭和四六年ごろに既に生活基盤の整備の立ち遅れ、公害の激化という欠陥が集中的に露呈し、さらに昭和四八年のオイルショックを契機とする産業構造の変化が鹿島開発に典型的に見られる大規模工業開発からの転換を強いることとなった。それによって、大型プロジェクトは、地域経済を活性化する力を持たず、失敗に終わった。
また、今後の方向転換によって発展の糸口をつかむことすら不可能なのが現状といわなければならない。
(エ) 鹿島の人口予測と現状
(a) 本件道路開設事業の前提となったのは、鹿島コンビナートが重厚長大型産業を前提にますます隆盛を極めるという事態であった。ところが、我が国の産業構造の転換と鹿島開発の失敗は、人口予測の狂いをもたらした。すなわち、本件道路開設事業の前提とする人口予測が、現実と乖離してきたのである。その結果、本件道路の予測交通量に大幅な狂いが生ずることとなった。
(b) 茨城県は、本件道路開設事業は昭和四二年の都市計画決定に基づくとする。
しかし、その都市計画時に見込まれていたところとも、現在では大幅な狂いが生じている。例えば、昭和四二年に茨城県が策定した「鹿島地区生活環境整備基本計画」では昭和五五年における鹿島町人口を一〇万四八〇〇人と、昭和四八年に設定された都市計画人口では昭和五五年の同町人口を一〇万八〇〇〇人と予測していた。しかし、昭和五五年の鹿島町人口は約三万九〇〇〇人と、予測値の四割弱にとどまっている。そのため、鹿島町では、その後、昭和六五年の予測人口を五万五〇〇〇人と、計画人口の大幅な下方修正を行ったほどである。
したがって、本件現道に今後、大規模な改築の必要な規模の交通量の増大は見込まれないといわなければならない。これは、将来交通量の推計において、昭和六〇年の本件現道は一日一二二台とされ、第一期計画から除外されていることからも明らかである。
(c) マスタープラン(茨城県が昭和三七年一二月に作成した「鹿島臨海工業地帯造成計画書」)との格差は更に激しい。すなわち、当初マスタープランは、昭和五〇年における三町(鹿島・神栖・波崎)人口を三〇万人としていたところ、現実に昭和五〇年の三町人口は、一〇万人に満たなかった。
さらに、茨城県の主張する交通解析の前提もまた崩れている。すなわち、茨城県は本件道路の昭和六五年の予測交通量を一日一万二五〇〇台とするのであるが、この前提は、鹿島町の人口が昭和五二年三万七三五四人から1.41倍になり、昭和六五年には五万二八〇〇人になることを前提とする。ところが、現実には鹿島町の人口は昭和五九年に四万二〇〇〇人弱であり、昭和六三年八月にも四万四二八七人であって、昭和六五年に到底五万二八〇〇人になるとは考えられない。
また、本件道路の付近の集落の人口は、昭和五二年から五八年、五八年から六三年にかけて減少傾向にあり、発生交通量が上昇することも考えられない。
(d) このような人口予測の狂いは、本件現道の予測交通量の狂いをもたらし、本件道路の必要性を失わせるのである。
(オ) まとめ
(a) 以上に述べたように、昭和六五年予測交通量は、一定の前提を持っていた。ところが、我が国の産業構造は転換を迎え、鹿島地区の産業、人口動態も、右の予測の前提とするところとは異なってきている。そもそも本件道路開設事業の前提とした、予測交通量の、その前提が異なるという事態は、本件事業認定時に、はっきりと予測でき、現実化しつつあった。
(b) そして、前述したように、現実に本件道路は、昭和六三年日量六〇〇〇台にとどまっている。これは、右に述べた前提条件が異なる以上当然のことであり、本件道路建設の必要性は存在しなかったものといわなければならず、少なくとも本件道路を四車線とする根拠は崩れていた。すなわち、茨城県によれば、日量一万二〇〇〇台以上の交通量の道路は四車線とすべきであるから四車線としたというのであるが、この解析の前提は、既に本件事業認定時には、とりわけ人口において崩れ、前記のとおり予測人口を大幅に下回ることが確実となっていた。他方、茨城県の主張する日量一万二五〇〇台という数値は、四車線を必要とする一万二〇〇〇台とわずか五〇〇台の差しかない。わずか五〇〇台という数値と、人口動態の予測とのギャップを比較すれば、計画より五〇〇台以上の減少という予測は容易である。それなのに茨城県は四車線道路の建設をしゃにむに急いだのである。本件道路、特に四車線の不必要性は、現実に昭和六三年の時点で、日量六〇〇〇台という数値となって証明された。しかし、これは昭和五八年段階で既に予測されていたことである。
(c) 以上のとおり、本件道路に必要性はなく、少なくとも四車線とする必要性はなかった。そして、それは昭和五八年本件事業認定時に既に明白なことだったのである。
(2) 本件道路整備の都市計画上の優先性不存在
次に述べるとおり、本件道路整備には都市計画上の優先性は全くない。
(ア) 道路のみならず、すべての公共事業が、必要性や地域間の均衡を考慮した上で、どの事業を優先的に整備すべきか、計画的に決定されるべきことはいうまでもない。
道路の整備についても、莫大な整備要求が存在する中から、その必要性及び優先性を基準に計画的に整備されるべきである。
また、公共事業は貴重な税金を使うものであるから、地方自治法が規定しているように(同法二条一三項)、すべての事業において最少の経費で最大の効果を挙げなければならないものである。
現実的にも限られた財源の中で、多額の事業費を要する道路整備は、予算の効率的な執行上、その整備の優先性に合わせて実施されているのが通例である。例えば東京都では、昭和五六年に既定都市計画道路の中から、優先整備路線を抽出し、優先度の高い路線から整備を進めている。
そして、こうした優先性の判断は、最も基礎的な自治体である市町村が行うべきものである。
以上の観点から本件道路開設事業を考えてみると、本件現道の整備が他に先んじて優先的に行われなければならない理由は皆無である。
(イ) 鹿島町当局の考え
(a) ところで、鹿島町当局は、土地収用法四二条二項で規定されている裁決申請があった旨及び収用しようとする土地の所在、地番、地目の公告並びに関係書類を公衆に縦覧する業務を拒否した。
このような鹿島町当局の態度は、本件道路開設事業を、少なくとも土地収用法を適用してまで実施しようとする考えは全く持っていないことを端的に示している。
(b) さらに、鹿島町の笹本助役は「町としてはもっと急いでやってほしい事業は他にある。」と発言した。同町の五十里総務部長も、「県道須賀北埠頭線改築工事は、町の他の都市計画(街路計画)の中で優先施行しなければならない理由はあるか。交通対策上優先して施行しなければならない街路計画が他にいくつもあると思うがどうか」との原告浜田弘の質問に対し、「町としてはより緊急性のある道路整備として、国道五一号、国道一二四号、県道鹿島港線の整備促進を強く国・県に働きかけています」と回答している。
(c) また、茨城県知事、鹿島町長、運輸事務次官及び新東京国際空港公団総裁が締結した昭和五六年二月二七日付け協定書では、運輸事務次官は国道五一号が整備促進されるよう努めること、運輸事務次官及び茨城県知事は国道一二四号、県道鹿島港線、町道神野押合線が整備促進されるよう努めることが記載され、本件現道の整備は特に協定には入っていない。
とりわけ、県道鹿島港線については、海岸土地改良事業の中で用地は取得済みであり、いつでも工事に着手できるのにもかかわらず、手が着けられていない。
茨城県及び鹿島町当局が優先整備の在り方を正しく認識し、用地取得可能な県道鹿島港線を整備すれば、鹿島町内とりわけコンビナートと大野村、大洋村、水戸市間の交通緩和に役立つことは明らかである。このような大きな事業効果を発揮する事業を放棄しておいて、本件道路に資金を投下する合理性は全くない。
(d) このような町当局の道路建設の優先性についての意向が存することは、県は十分認識していた。
(e) 以上のように、鹿島町としては本件道路開設事業を積極的に優先性あるものとして求めているわけではなく、しかも本件道路開設事業の執行によって優先度の高い事業の実施が遅れることになるのであって、これは新たな不合理を発生させるものである。
さらに、本件道路の整備を強制収用という強権的手続で強行してきた茨城県当局の姿勢は、昭和四〇年六月二九日に締結された茨城県知事と鹿島町長との間の鹿島臨海工業地帯造成事業に関する確認書で約束された「土地買収に当たっては理解と協力によって推進する方針を堅持し、強制収用は行わない」旨の条項に明らかに反するものである。
(ウ) 茨城県当局の資料による優先性の検討
(a) 本件現道は茨城県の道路整備計画上も優先整備道路ではなく、具体的な優先整備計画が存在しないにもかかわらず、昭和五七年度になって突如予算化されたものであり、茨城県自身も本件現道整備の優先性を全く立証ができなかった。
(b) 茨城県には、昭和四五年八月時点では、茨城県土木部道路建設課作成の第六次道路整備五か年計画つまり優先的に整備する具体的な路線や街路についての整備計画が存在し、その計画に沿って毎年予算化をして道路整備をしていたことは明らかである。
また、茨城県の道路整備の責任者である茨城県道路建設課長の武尾登自身、昭和五八年八月三一日付け「新いばらき」で、年次計画に基づいて道路の整備をしていることを認めている。
したがって、茨城県が本件現道整備に関する優先整備計画を提出しえなかったということは、本件現道の整備についての優先性が県の道路整備計画の上でも認められていなかったということを端的に示している。
(c) 逆に茨城県が委託した鹿島地区土地環境整備計画策定調査報告書によれば、本件現道の昭和六〇年における需要配分推定交通量は日量〇台(実際配分は都市計画上意味がないが日量一二二台である。)であり、茨城県の主張する昭和六五年度の推定交通量日量一万二五〇〇台は全く考えられない数値であって、本件現道整備を必要とする理由をこじつけるために意図的に作出された虚偽の推定交通量である。
同報告書は、茨城県道路建設課作成の茨城県内将来交通量推計調査報告書に基づく需要予測結果であり、この結果は交通現況と良く一致する。
同報告書によれば、優先的に第一期(六〇年まで)に整備されるべき道路として、鹿島町域では国道五一号、同一二四号、町道神野―押合線が指摘されている。
(d) これらの結果は、前述の鹿島町総務部長の回答書並びに茨城県知事、鹿島町長、運輸事務次官及び新東京国際空港公団総裁の協定書の内容と全く一致する。
(e) この点について、茨城県は、本件現道より国道五一号、一二四号の方が優先性が高いことを認めつつも、それぞれ理由をつけ本件現道を優先整備したことを合理化しようとしている。
すなわち、国道五一号については、鹿島の土地区画整理事業の中で建設する予定であったが、その前提として埋蔵文化財の発掘調査をしなければならず、それに経費がかかるということ、及び、まだその段階までは区画整理事業が至っていないことから手を着けなかったとしている。
しかし、埋蔵文化財があるから道路建設ができないということであればそれは理由となるが、そうでなく調査を完了すればできるのであるから、経費がかかるにしても優先性には何ら関係なく、単年度予算で完了しないのであれば数年度にわたる形であっても、優先性の高い方に着手がされるべきなのである。
区画整理事業が至っていないといっても、それを実行すること、実行を促すことは可能なのであるから、やはり、この点を理由として、本件道路を優先的に建設する根拠にはならない。
国道一二四号については、茨城県は、鹿島セントラルビルに近いところで用地取得に難航しているから本件現道に優先性があるとしている。
しかし、他のか所が用地取得できないわけではないのであるから、それを取得し、一二四号の供用開始を早める努力をすべきであることは自明のことである。
(f) さらに、本件現道の整備を、幹線ネットワーク網の一環という観点から離して、生活関連道路という視点でとらえてみても、本件現道を優先整備すべき合理的理由はない。現道の日量三二七五台(昭和五六年一二月一〇日)という交通量を上回る道路は他にも多くある。
現在、鹿島町の中で非常に交通が渋滞してしまって、交通対策上、対策を迫られているか所がある。一番大きいのは五一号線の沿線であり、そのほか鹿島町の役場の周囲、一二四号と五一号が交差する部分等である。すなわち、五一号、一二四号沿線が本件現道の交通量を上回るのである。
(3) 事業効果の点からみた本件道路開設事業の不当性
本件道路は、ネットワークを形成せず、残余部の整備が行われて将来ネットワークが形成される見込みも極めて薄く、本件道路開設事業には事業効果はない。
その根拠は、次に述べるとおりである。
(ア) はじめに
(a) 道路整備の基本は、ネットワークの確保にある。
道路は、歩行者、自転車、自動車の通行の利便施設であることから、それらのスムーズな通行を確保することが、第一義に考えられる。そして、ネットワークの形成が右目的にとって必要であることは、理の当然である。
(b) しかし、本件道路は、道路整備の基本に沿っていない。
それ故、本件道路を計画、建設しても、事業効果を挙げえず、それを強行する公益上の理由は存しない。
(イ) ネットワークの不形成
(a) 途中での切断
本件道路は、鹿島町と大野村の境界の奈良毛で現道茨城鹿島線(別紙図面(一)①地点)に合流している。しかし、その先(別紙図面(一)①より北方)についての事業認定、工事の施行はされていない。したがって、本件道路に流入した車は、主要地方道茨城鹿島線と合流する地点(別紙図面(一)①地点)以北はその路線を来た車と一緒に走ることとなる。
茨城県は、現道須賀北埠頭線の車両通行量は、昭和五六年度で三二七五台であり、道路幅員からして混雑度は6.55であるとし、その混雑を解消することを本件道路建設の一つの理由としている。
しかし、本件道路は途中で茨城鹿島線の旧道と合流していて、それ以北は、現道茨城鹿島線を利用することから、現道部分の混雑度は変わらず、県の目的は達成されないこととなる。
さらに、本件現道が整備されることにより新たに流入する交通量が存する。すなわち、以前の交通量プラスαの交通量が発生する。その結果、現道茨城鹿島線の交通量は増大し、その混雑度はもっと増加することとなる。特に、本件道路と現道茨城鹿島線の接続部分で現在と比較できないほどの深刻な交通渋滞が発生し、幹線道路としての機能を果たしえない結果となる。
(b) その後の工事着工予定の不存在
都市計画としては、本件道路を延長することが予定されなければならない。
しかし、その計画が事業化される可能性はない。
(c) 延長部分の現道一二メートル拡幅案の不十分性
① 本件道路は、幅員二〇メートルを計画している。しかし、同一計画内での、それに接続する道路の現況も計画幅員も一二メートルである。
② 茨城県は、幅員二〇メートルの根拠を、昭和六五年度の車両通行量予測では一日一万二五〇〇台と見込み、その交通量を処理するためには、片側二車線の道路幅員が必要であると主張している。
仮に右主張が正しいと仮定した場合、接続道路は一二メートルであるから、本件道路を二〇メートルにする意味はないし、別紙図面(一)①〜③の道路部分での混雑度は高まり、交通渋滞がひどいものとなる。
③ 以上のことから、別紙図面(一)①〜③の現道を一二メートルに拡幅しても、起業者らの計画は、効果が期待できない。
(d) 茨城鹿島線との連絡の不十分
① 本件道路が接続するのは茨城鹿島線(別紙図面(一)①〜④の路線)である。別紙図面(一)を見ても分かるとおり、右茨城鹿島線の現道須賀北埠頭線と接続している①地点から北方向の道路には、④方向から来る車と、本件道路、現道須賀北埠頭線方向から来る車とが合流する。
ところが、①点から北の方向に延びる茨城鹿島線は、現況片側一車線である。
また、将来幅員拡張の都市計画は何ら示されていない。
② この事実からして、いくら本件現道を整備しても、それに接続する茨城鹿島線の別紙図面(一)①地点より北方向の部分が拡幅されない限り、右道路は茨城鹿島線の鹿島神宮駅方向より入って来る車両に加え、本件道路より入って来る現在より増大する車両により、交通混雑が増大することは明らかな事実である。
③ 以上の事実より、本件道路のみ幅員二〇メートルにしても、全く事業効果を挙げることはできない。
(ウ) 延長部分の現道一二メートル拡幅案の意味
(a) 以上述べてきたことからも分かるとおり、本件道路に関連している道路の幅員は二〇メートルより皆狭い。
本件道路が接続する現道須賀北埠頭線の計画幅員は一二メートルであり、それが接続する茨城鹿島線が一〇メートルないし一二メートルである。
(b) これの意味するところは、本件道路及びそれに接続する関連道路の交通量及び交通量予測からして、本件道路の道路幅員は一二メートルあれば十分であるということである。
本件道路を通る車両のルートとしては、沼尾地区等別紙図面(一)①の方向の地区に居住する者が鹿島コンビナート及び市街地国道五一号線方面に出て来る場合に、茨城鹿島線を利用し、別紙図面(一)②で右折し、③点を通って来る場合、またその逆の場合である。
そうだとすると、この地域の道路で一番交通量の多いところは、別紙図面(一)①地点から北方向の茨城鹿島線である。
しかるに、その一番交通量の多い右道路の幅員が一〇メートルないし一二メートルで、その拡幅の計画もない。ということは、現実においても将来予測においても、一二メートル幅員で十分対応できる交通量だということができる。
(c) 結局は、本件道路の幅員を二〇メートルとすることは、車両交通量の増大等の道路交通上の必要性からではなく、工業用水道管が地下に埋設されていることから、その敷地を確保する必要性からだといえる。
このような裏の意図があるから、全く効果の認められない道路計画を強行せざるをえないのである。
(4) 本件道路開設事業案選定の妥当性の不存在
本件道路開設事業案(以下「本件案」という。)は考えうる最悪の案であり、他の三案が本件案より勝っており、かつ、他にもより妥当な案が存在する。
すなわち、次に述べるとおり、茨城県が検討したとする他の三案(現道拡幅案、現道一部利用案、最短距離案)は本件案より妥当性を有するものである。
(ア) 現道拡幅案について
(a) 現道拡幅案の問題点として起業者茨城県側は収用委員会においては次の三点を主張する。
① 人家連たん地域を通過するため家屋移転が六九棟となり、多くの住民に移転義務を強いることになる。
② 暫定施行済みの道路への接続について、一般国道五一号と一部重用するため、重用区間の出入口となる交差点における交通渋滞が解消されない。
③ 曲線が多く、道路構造令に合致した道路ができない。
(b) まず家屋六九棟の移転戸数は、道路幅員が二〇メートルであることを前提としたものである。
しかし、本件道路を二〇メートル幅員にする必要性は全くない。
本件道路幅員は暫定供用時の一二メートルで十分なのであり、この一二メートル幅員を前提とすれば移転戸数は二〇軒以下となることは明らかである。また、右の移転住居はいずれも木造であり、短距離牽引しただけで、ほぼ同一のか所に住み続けることが可能なのである。
逆に、本件現道は幹線道路としての通過機能はなく、周辺住民の通勤路としての性格を有しており、現道拡幅が最も住民の利益にも合致する。
(c) 茨城県は、現道拡幅案を否定する一つの理由として交差点における交通渋滞を挙げる。しかし、その意味するところは不明確であり、また、仮に百歩譲って、信号が二か所より一か所の方が良いという一般論を認めたとしても、起業者が説明しているのは県道須賀北埠頭線を宮中から大船津方向に進行して来て、国道(一部重用区間)を経由して暫定供用区間に抜ける車についてだけ妥当するものである。しかるに、このような車両がどれだけの割合で存在するかは、起業者も調査していないのである。
そして、ほとんどの車両は暫定供用区間へと右折せず国道五一号線をそのまま鹿島市内に流れるものと推測される。
したがって、起業者の説明には何ら具体性、合理性がない。
むしろ、右交差点において生じている多少の「渋滞」を解消するためであれば、交差点部分が拡幅され、信号の開閉の調整が合理的にされれば、十分効果を挙げることが期待できるのであって、本件案に比し、格段に低い投資をもってほぼ同等の効果を期待できる右のような改善策について何ら真摯な検討を経ないで本件案を選択したことは不当である。
(d) 起業者は本件現道には屈曲か所が六か所あるとするが、それを明示しない。
しかし、まず第一に、屈曲か所とされているものは何ら道路構造上も問題のないものであって、むしろ、拡幅に際して若干の工夫を講ずれば全く問題がなくなることは明らかである。にもかかわらず、このような点をとらえて、屈曲か所が多いと論ずるところに起業者の欺瞞的姿勢が表れている。
第二に、仮にあるとしても、半径一五〇メートル線形をとることは十分可能であり、このようにすることによって何の不都合もない。
(e) 茨城県は、本件事業認定の取消しを求める訴訟に至ってから、国鉄鹿島線との交差においても、現道利用案には支障がある点を主張するようになった。しかし、このような点は収用委員会では全く問題にされておらず、現道拡幅でも、車道部分八メートルは国鉄鹿島線との交差で支障なく拡幅できるのである(幅員一二メートル、車道八メートル、歩道左右各二メートルの道路であれば何の支障もなく作れる。)から、国鉄線との交差は重大な問題点ではない。
(f) 現道拡幅案には次のようなメリットがある。
① 潰地面積が最小で済み、財政的にも最も有利である。
② 本件現道には幹線道路としての通過機能はなく、周辺住民の通勤路、生活道路であるから、現道付近住民にとっては現道拡幅が最もその利益になる。
③ 農用地区域を通過しないので、他案に比べ農業上の土地利用、水利等からも最適である。
④ 文化財等を破壊することもない。
(イ) 現道一部利用案について
(a) 現道一部利用案の問題点として起業者側は次の三点を主張する。
① 現道を一部利用するため潰地面積は少なくて済むが、人家連たん地域を一部通過するため八棟の家屋を移転させること。
② 一般国道五一号との交差点に曲線が入り道路線形が良くないこと。
③ 他案と比較すると延長が長くなり事業量が増大すること。
(b) まず、八棟の移転は、やはり道路幅員二〇メートルを前提とした数字である。一二メートル幅員では移転戸数は二戸程度と考えられ、ほとんど問題となるような数字ではない。
(c) 茨城県は一般国道五一号との交差点に曲線が入ると主張する。そしてその内容として「五一号バイパス計画(都市計画決定済み)に曲線が入ることを意味する」と説明している。
しかし、それによって何ら不都合は生じない。
それをいうのならば、本件道路と現国道五一号との曲線(これは七〇度くらい)や、後述する国道五一号線との交差部分の接続が不自然に歪んでいる点の方がよっぽど問題である。
さらに、第二点として、右の国道五一号バイパスの道路計画は、北浦に別の架橋を設けることとして、大幅な変更が加えられており、右変更後の計画によれば右のカーブは更に一層、無視できるほどのものとなる。
なお、右道路計画が既に変更されており、そのことを十分知っていたにもかかわらず、起業者は、土地所有者らから収用委員会の第一一回審理に至ってこのことを指摘されるまで、右の変更について全く説明もしなかった。この点にも起業者の不公正な態度が如実に表れているというべきである。
右五一号バイパスの計画変更については、本件案と他の案との比較検討時点では旧計画案が前提とされており、新計画案に沿った比較対照は一切されていない。この点だけを取り上げても本件案は根本的な再検討を要するものというほかはない。
(d) また、茨城県は事業量が増大すると主張するが、現道を一部利用する部分は道路整備は比較的容易であることを考えると、起業者の主張する点には本件案との間に意味のあるような差はない。国鉄線との交差の点も、前述したとおりである。
(e) 現道一部利用案には次のようなメリットがある。
① 起業者も認めるとおり、現道を一部利用するため潰地面積が少なくて済むし、財政的にも比較的有利である。
② 本件案と同じく交差点は一つで済む。
(ウ) 最短距離案について
(a) 最短距離案の問題点として起業者は次のとおり主張する。
① 他案に比較して距離が一番短くなるという利点はあるが、一部丘陵部を通過するため潰地面積、土工量とも多くなる。
② 天神林古墳群の一部を通過するため文化財保存上の問題が生ずる。
(b) しかし、最短距離案が丘陵部にかかるといっても、ほんの一部の区間にすぎず、またほんの三〇メートルほどシフトさせれば丘陵部にはかからないようにすることができる(この丘陵部にかからないようシフトさせた案を修正最短距離案と呼ぶ。)。
この修正最短距離案が潰地面積、土工量や買収に要する財政負担の点からみて本件案より有利な案であることは明らかである。修正最短距離案では移転戸数はゼロになると考えられる(本件案は三戸である。)。この修正最短距離案ではなく本件案を選択した合理的な理由は全く説明されていない。
右のように修正最短距離案のような合理的な案が考えられるにもかかわらず、あえてこれを検討しない態度は、何が何でも別の理由から本件案に固執する理由があったからであるとしか考えられない。
(c) 天神林古墳群通過の点について、茨城県は天神林古墳群があると主張する。
しかし、天神林古墳群はその主張する場所にはなく、宮中野古墳群の誤りなのである。本件案は明らかに誤った認識に基づいて立案されたものである(収用委員会審理において道路建設課長もこのことを認めている。)。
文化財保存のための行政内部の手続についても重大な過誤がある。すなわち、県が道路を建設するに当たって、県の教育庁文化課との間でしか協議しておらず、右遺跡を直接に管轄している鹿島町教育委員会との間で全く協議がされていないということである。そのために、県は右のような初歩的なミスを犯すこととなったのである。
右のとおり、本件案の選択が文化財保存上の考慮によるという起業者の主張も全くまやかしである。
(d) 国鉄との交差の問題は、この修正最短距離案の場合は、全く問題とならない。本件道路が通過する部分より山側に数十メートル寄った部分に、他の道路都市計画のため、橋脚幅を特に一六メートル以上の幅にとっているか所がある。
最短距離案(修正最短距離案もほぼ同様)をとった場合、道路は本件道路が通過する部分と盛り土部分のちょうど中間部分あたりで国鉄鹿島線と交差する。そして、この部分にちょうど右の一六メートルの橋脚幅の部分が設けられているので、車道一六メートル、歩道各二メートルの道路であれば全く問題なく作ることができる。
(エ) 本件案について
(a) 茨城県は、以上の三案はすべて妥当でないとして、さらに本件案を選択した理由として次のように主張する。
① 潰地面積が比較的少なく、家屋移転は三棟で済む。
② 本件起点部と現道との取り付けが円滑な曲線で取り付く。
③ 本件案のルートが昭和四二年に都市計画決定されていること。
④ 関連事業の潰地面積が最少であること。
⑤ 国鉄線との交差に支障がない。
(b) まず、右の①⑤の理由がないことは、以上縷々説明したところである。
(c) ③の主張は、およそ無内容である。
しかし、このような事実が、何故に、本件案を選択し、他の案を排斥する理由となるのであろうか。起業者の説明は誰も納得させることはできないと思われる。このようなこじつけの理由しか主張できないところに、本件案の隠された意図(工業用水道管の使用継続という意図)が明らかになっているというべきである。しかも、そもそも、その都市計画決定の内容を、本件に即して、茨城県は明示していない。
(d) 現道取り付け部分の点については、現道拡幅案ではこのような取り付け自体が問題とならないし、現道一部利用案、最短距離案と本件案とで、本件バイパスと現道との交差角度は全く同一といってよいのであり、他の案に比較した本件案の有利な点となりえないことは明白である。
(e) また、関連事業の点は、他案において全く検討されておらず、比較は本来できないものであるのみならず、有意な差があるとは考えられない。
(オ) 以上のとおりであって、本件案選定の理由、他案の排斥の理由として起業者の主張する点は、いずれも理由がない。
(5) 本件道路開設目的の違法性
本件道路開設事業は、本件道路設置に目的があるのではなく、昭和四八年七月二八日茨城県収用委員会裁決に係る本件道路敷地部分の工業用水道管(以下「工水管」ということがある。)敷設使用の期限切れ(昭和五八年九月七日まで)に伴う右使用の継続に主要目的があるものである。
その根拠は、次に詳述するとおりである。
(ア) 土地収用手続の不自然性
鹿島町地域には都市計画上多くの道路整備計画があるが、土地収用法を適用してまで強制的に道路整備をしている例は本件以外になく、しかも原告浜田耕太郎(以下「原告耕太郎」という。)及び同浜田弘に対する道路としての収用に関する任意の話合いへの働きかけは全くなかった。
(イ) 道路形態の不自然性
(a) 本件道路は、工業用水道管を下に通すために、既に暫定供用されている部分との接続が不自然に曲がっている。これと直線で結ぶとすれば、工業用水道管上を通過しないからである。
この点は極めて重大な論点であるので詳述する。
(b) まず、別紙図面(二)によると、国道五一号線をはさんで図面右側が本件道路、図面左側が暫定供用されていた区間である。とりわけ、本件道路側から交差点を越えて暫定供用区間に向かう車線(黄色で着色した部分)についてみると、相当な急角度で交差点にカーブが入っている。
茨城県自ら、その主張において、再三、交差点にカーブが入ることは道路交通安全上問題であると主張していたものであり、主張自体自己矛盾を来しているといわなければならない。
(c) 道路形態がこのように不自然となった理由は、工業用水道管が、暫定供用区間を延長した部分(赤く着色した部分)の下にではなく、黄色に着色した部分の下に埋設されていることにある。道路接続を直線にしてしまうと、土地収用によって、工水管埋設地の確保が十分できなくなってしまうのである。
このような不自然な道路形態は、本件道路が円滑な道路交通を目的とするものではなく、工水管の確保を目的としたものであることを反論の余地なく明確にしているものといえる。
(ウ) 道路幅の不自然性
(a) 本件道路は、四車線で計画され、道路幅は二〇メートルとされ、取りあえず暫定供用される二車線の段階でも、道路幅は同じ二〇メートルとされている。
しかも、前記のとおり、本件道路起点から茨城鹿島線に至る間は現道のままであって、この間の幅のずれは、いかにも不自然である。
(b) さらに、国道五一号線は、斜めに測定しても幅一五メートルであるのに、それより格の落ち、必要性の少ない本件道路が幅二〇メートルというのはいかにも不自然である。
県道茨城鹿島線は二車線であり、本件道路を殊更四車線とする必要はない。本件道路周辺に幅員二〇メートルの道路など、幹線も含めてない状態で、あまりにも場違いな印象は否めないところである。
(c) 二車線の時代の予測交通量も全く算定することなく、取りあえず二車線とし、しかも歩行者がさほど予測されないのにそれに歩道をつけ、さらに、その歩道をつけたときとつけないときの道路幅が同じというのもいかにも不自然である。これらの諸点からも、本件道路が工水管のみのために計画されたことが分かる。
すなわち、道路幅を一二メートルとしたのでは工水管の埋設地を全面的にカバーしきれないことから、道路交通上の必要性とは別個の観点からどうしても道路幅を二〇メートルとする絶対的必要性があったと考える以外にないのである。
(エ) 農業振興地域変更の不自然さ
本件道路は、農業振興地域を通過するため、道路用地は農業振興地域から除外する必要がある。本件道路については、当初二〇メートル幅員の道路を前提に土地が農業振興地域から除外されていた。ところが昭和五七年二月一二日公告の「鹿島農業振興地域整備変更計画について」によると、幅員一二メートルの土地を除いて農用地への編入がされた。これは、地元住民の要望によるものであり、すなわち、この段階で、本件道路の幅員は一二メートルあれば十分であるという行政判断が示されたこととなる。極めて常識的な判断といえるであろう。
ところが、土地収用裁決の申請の行われた昭和五八年四月二七日より更に半年遅れた昭和五八年一〇月一二日付けの告示で、幅員一二メートル以上二〇メートル以下の部分を再度農用地から除外した。幅員二〇メートルで土地収用を申請していることに合わせて再度変更したことになっているのである。このことは、本件道路幅員が二〇メートルとされたのが、通常の行政的判断によるものではなく、工水管確保のためという異例な目的によるものであったため、行政判断の整合性がとれず、土地収用裁決申請の段階で見落としてしまったことを示すものと考えられる。
(オ) 本件道路と国定公園及び都市計画
(a) 本件道路が通過する北浦湖岸一帯は自然公園法に基づく国定公園の指定がされている。右指定地内での住宅の建設その他工作物の築造は厳しく制限され、いちいち同法の指定解除の手続を必要としている。緑地保全、景観保全上当然の措置である。
しかるに、本件道路については、公園区域であることに対する配慮がなく、いとも無造作に道路計画が立てられた。本件道路は仮に建設さるべき必然性があるならば、現道拡幅を原則とすることによって景観を極力保全すべきであり、そうすることが、自然公園法の趣旨にも沿うものである。
(b) 鹿島町建設基本構想は、本件道路区域を含む一帯を、水田中心の農用地とし、かつ、緑地として保全するという土地利用を想定している。
右の観点から、都市計画上の問題として、同地区の開発ポテンシャルをコントロールし、生産緑地、森林区域を確保する等の方策で極力開発を抑制すべきであると指摘している(昭和五八年三月、鹿島町市街地整備計画)。
ところが、茨城県は収用委員会において、本件道路の事業効果として、「沿道地域土地利用度の増大及び地域開発等を促進させることができる」と主張している。
本件道路は、国定公園や、鹿島町の基本構想、都市計画等の目指すところとまるで逆の効果をもたらすものである。起業者が町の実施しているこれらの事業との整合性を破壊してまで本件道路開設事業を推進する理由は、唯一工水管用地の確保以外にありえない。
(カ) 本件道路と土地改良事業
本件道路開設事業の区域では鹿島湖岸北部土地改良事業が行われており、右土地改良事業の事業計画書によれば、本件道路は土地改良事業の中で用地を取得する計画であった。国道五一号用地についても右土地改良事業によって取得される計画である。現国道五一号付近の工区については、昭和六一年度施行の予定である。
優先整備を要請される国道五一号バイパスが六一年度用地取得待ちであるのに対して、本件道路は当初計画を変更して用地取得をして工事に及んだのである。起業者はこの間の事情について、「予算がついたため」と説明するが、これは明らかな虚言である。
すなわち、先に言及したが、海岸土地改良区内では既に数年前に土地改良事業は完了し、県道鹿島港線の用地は取得済みなのである。
鹿島では通常このように、土地改良事業、区画整理等で公共用地の取得を図っており、本件道路の如く、計画を変更してまで、単純買収による用地取得をするのは異例中の異例である。
このような異例な措置の真の理由は、工業用水道管用地の収用期限切れをひかえ、土地改良による整備を待っていられなかったということなのである。
(キ) 以上検討したように、本件道路区域一帯が、農業振興地域、自然公園法に基づく国定公園区域であることから考えれば、農地保全上も、景観保全上も、現道拡幅、幅員一二メートル案が最も望ましく、他事業との整合性のとれた計画であり、本件道路計画は、その必要性も妥当性も全くない違法なものである。
そして本件道路建設は、道路交通を目的とするものではなく、その真の目的が工水管使用にあることは明らかである。
(6) 法治主義違背
本件道路開設事業は、違法行為を行っている茨城県によるその違法行為の対象土地に対するものであり、このような法治主義の原則に違反する点を無視ないし看過してされた本件道路開設事業は違法である。
すなわち、茨城県は、本件道路敷地にあたる原告耕太郎所有地の地下における工水管敷設のための使用権を、土地収用により、昭和五八年九月七日までしか有しておらず、借地法の適用はないから、右期日以後、原告耕太郎所有地を不法占拠しているところ、このような違法行為を行う茨城県は、その違法行為の対象土地に道路を開設する資格を有しない。したがって、本件道路開設事業は違法である。
(7) 本件道路距離の不確定
本件道路区域変更決定によれば、本件道路の延長距離は一八〇五メートルであるにもかかわらず、その後の建設大臣による本件事業認定に係る事業計画では道路延長距離は一八一〇メートルとされていて矛盾しており、本件道路区域が不確定である。
3 監査請求
原告らは、前記各費用の支出は違法不当な公金の支出であるとして、昭和五八年六月一六日茨城県監査委員に対し、地方自治法二四二条に基づく次のとおりの内容の監査請求をしたが、同監査委員は、同年八月一〇日右請求は理由がないという監査結果を出し、右は同月一五日原告らに到達した。
(1) 被請求者竹内藤男、橋本章は、連帯して茨城県に対し四億三〇一二万三〇〇〇円の金員を支払え。
(2) 被請求者竹内藤男は、昭和五六年三月五日付け茨城県告示第三〇四号の「道路法一八条一項の規定に基づき、県道須賀北埠頭線の区域を鹿島郡鹿島町大字宮中字宮中野三八二七番地先から同町大字大船津字香取町二六五七番地の一地先まで、敷地の幅員最大12.00メートル、最小4.50メートルを最大12.00メートル、最小4.50メートル、最大43.00メートル、最小4.50メートルと、また延長二五二〇メートルを2520.00メートル、一八〇五メートルと変更した決定」を取り消せ。
(3) 被請求者竹内藤男は、昭和五七年一一月二九日付け用第三七一号での土地収用法一六条の規定による県道須賀北埠頭線改築の事業認定申請を取り消せ。
(4) 被請求者竹内藤男は、昭和五八年四月二七日付け茨城県収用委員会宛の昭和五八年二月一七日事業認定の告示のあった県道須賀北埠頭線改築工事及びこれに伴う国道拡幅工事並びに町道摺付工事についての土地収用法三九条一項の規定による裁決申請を取り消せ。
(5) 被請求者竹内藤男は、昭和五八年四月二七日付け茨城県収用委員会宛の土地収用法四七条の二第三項の規定に基づく茨城県鹿島郡鹿島町大字大船津字時秀町二七一八番一公簿田・現況宅地及び同町二七一八番二公簿田・現況宅地の明渡裁決申請を取り消せ。
4 結論
よって、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項四号の規定に基づき、茨城県に代位して、被告竹内、同橋本、同古橋に対し、前記損害を同県に賠償すべきことを求める。
二 被告古橋の本案前の主張
原告らは、一九九〇年(平成二年)五月二一日付け準備書面(同月二三日当裁判所受付)により、新たに被告古橋に対する訴えを追加したが、右は既に地方自治法二四二条の二第二項の出訴期間を経過してされたものであることが明らかであるから、不適法な訴えである。
三 請求原因に対する被告らの認否及び主張
1 請求原因1の事実は認める。
同2(一)、(二)(1)の事実のうち、被告竹内が本件道路開設事業、用地買収、道路工事を実施したことは否認し、その余は認める。右実施主体はいずれも茨城県である。
同2(二)(2)の事実のうち、被告竹内が原告ら主張の事業認定及び裁決の申請、土地収用、明渡しの執行を行ったこと並びに被告竹内が被告橋本及び同古橋に右費用の支出を命じ、被告橋本及び同古橋が右費用を支出したことは否認し、その余は認める。右各申請主体は茨城県であり、また、右各費用の支出を命じるのは茨城県潮来土木事務所長であり、それを受けて支出を実行するのは同事務所地方出納員である。
同2(三)の冒頭の事実は否認する。
同2(三)(1)のうち、(ア)(a)中の茨城県が本件現道の交通量を一日当たり三二七五台と記録していること、(ア)(b)中の茨城県は本件現道の混雑度が6.55に達しているとしていること、昭和五五年の道路交通センサスによれば、混雑度は国道五一号線(鹿島町宮中)が1.48、県道茨城鹿島線が1.11であること、(ア)(c)中の茨城県が「朝夕の混雑時には交通停滞がはなはだしい」と主張していること、(イ)(a)の事実、(イ)(b)中の交通センサスでは、本件現道の一日の交通量は、昭和五六年で三五〇〇台、昭和五八年で約四〇〇〇台であり、昭和六五年の計画交通量を一万二五〇〇台と予測していること、国道一二四号の平均交通量(昭和五五年)は、一日約一万一三〇〇台であること、(エ)(b)中の昭和四二年に茨城県が策定した「鹿島地区生活環境整備基本計画」では昭和五五年における鹿島町人口を一〇万四八〇〇人と予測していること、同年の同町の人口は約三万九〇〇〇人で予測値の四割弱であること、鹿島町が昭和六五年の予測人口の下方修正をしたことは認め、その余の事実は否認ないし知らない。
同2(三)(2)のうち、(イ)(a)中の鹿島町が土地収用法四二条二項に規定する公告及び書類の縦覧をしなかったこと、(イ)(c)中原告ら主張のような協定書が存在することは認め、その余の事実は否認ないし知らない。
同2(三)(3)の事実は否認ないし知らない。
同2(三)(4)のうち、(ア)(a)の事実、(ア)(b)中家屋六九棟の移転戸数は道路幅員が二〇メートルであることを前提とするものであること、(イ)(a)の事実、(ウ)(a)の事実、(エ)(a)の事実は認め、その余の事実は否認ないし知らない。
同2(三)(5)の事実は否認する。
同2(三)(6)の事実のうち、茨城県が、原告耕太郎所有に係る土地における工水管敷設のための使用権を昭和五八年九月七日まで有していたことは認め、その余の事実は否認する。
同2(三)(7)の事実は否認する。
同3の事実のうち、原告らへの監査結果到達日は否認し、その余は認める。
同4は争う。
2 原告らは、本件公金支出の前提として、本件道路開設事業が違法である旨主張するが、その違法が重大かつ明白であって、右事業の決定を無効にする場合を除いては、本件公金支出行為を違法とするものではないところ、原告らの主張している違法事由は重大かつ明白な違法といえないことは明らかであるから、原告らの主張は失当である。
第三 当事者の提出、援用した証拠<省略>
理由
一まず、被告古橋の本案前の主張について検討する。
原告らが本件訴訟に先立ち経由した住民監査請求は、昭和五八年六月一六日に行ったもので、右監査請求は理由がないとする同年八月一〇日付けの監査結果が同月一五日に原告らに到達したことは原告らが自認しており、また、被告古橋に対する訴えは、原告らの一九九〇(平成二)年五月二一日付け準備書面(同月二三日当裁判所受付)により新たに追加されたものであることは本件記録上明らかである。
してみれば、仮に、被告古橋に対する訴えが監査請求を経たものとしても、同被告に対する訴えは、平成二年五月二三日に提起されたものであるから、地方自治法二四二条の二第二項一号の「当該監査の結果又は当該勧告の内容の通知があった日から三十日以内」という出訴期間を徒過して提起されたものであることが明らかであり、他に出訴期間の遵守に欠けるところがないと解すべき特段の事情も認められないから、右訴えは不適法であるといわなければならない。
二次に、被告竹内、同橋本に対する請求について判断する。
原告らは、本件道路開設事業(本件道路の道路区域変更決定)が種々の理由により違法であるから、本件道路用地の買収、収用及び道路建設工事の各費用支出も違法であるとして、右支出を行ったとする被告らに対し、地方自治法二四二条の二第一項四号により損害賠償を求めている。
地方自治法二四二条の二第一項四号の住民訴訟において、地方公共団体の執行機関又は職員がした財務会計上の行為自体に違法がある場合だけでなく、右行為とその執行機関又は職員がした当該財務会計上の行為の原因となる行為との間に一定の関係がある場合には、当該原因となる行為が違法であれば、当該財務会計上の行為も当然に違法となるものというべきであるが、右関係を緩やかに判断するならば、およそ公金の支出を伴う行政作用(このような行政作用が極めて広範かつ多岐にわたるものであることは明らかである。)であれば、その公金の支出の違法を争うことによって、その前提としての行政作用一般を争うことができるようになってしまい、住民訴訟の対象が財務事項に限定されているという原則に抵触することになることに鑑みると、右関係は、少なくとも、当該財務会計上の行為の原因となる行為が財務会計上の行為を適法に行うための要件となっている場合など前者が後者の直接の原因ということができるような密接かつ一体的な関係であることを要するものと解するのが相当である。
そこで、これを本件についてみると、道路区域変更決定は、円滑な道路交通の確保及び発達という非財務的見地から行われる道路法一八条一項に基づく道路行政上の行政処分であって、この処分により当該道路の敷地等の財産的価値に影響を及ぼすことになるにしても、右処分自体財務会計上の行為ではない上、当該道路開設のためにその用地に対する権原を任意買収あるいは収用裁決により取得したり、道路設備建設のための工事請負契約を締結したりするための適法要件となっているものではないし、その直接の原因でもないというべきであるから、仮に、道路区域変更決定に何らかの違法があるとしても、その違法は道路用地の収用、買収、道路建設工事の各費用支出という公金の支出を違法ならしめるものではないといわなければならない。
したがって、本件道路開設事業すなわち本件道路区域変更決定の違法を理由として本件道路用地の収用、買収、道路建設工事の各費用の支出が違法であるとする原告らの主張は採用することができず、原告らの請求はその余の点について判断するまでもなく、失当として棄却を免れないというべきである。
三よって、原告らの被告古橋に対する本件訴えは不適法であるから却下し、原告らの被告竹内及び同橋本に対する請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官矢崎秀一 裁判官山﨑まさよ 裁判官神山隆一)
別紙図面一、二<省略>